駅前で毎日見かける看板。
通勤でいつも通る交差点の広告。
最初は気にも留めていなかったのに、気づけば会社名だけは覚えている。
商品を使ったこともない。
お店に入ったこともない。
それでも、
「見たことがある。」
「なんとなく知っている。」
そんな記憶が残っている広告はありませんか。
OOH(Out of Home:屋外広告)の面白さは、まさにここにあります。
屋外広告は、その場で商品を購入してもらう広告でも、サービス内容を詳しく理解してもらう広告でもありません。
街の中で人と何度も出会い、少しずつ記憶を積み重ねていく広告です。
ところが、OOHの世界では昔から、
「3秒で伝えろ」
という言葉が語り継がれてきました。
歩行者が看板を見る時間はほんの数秒。
ロードサイドでは、ドライバーが視認できる時間はさらに短くなります。
そのため、
こうした考え方は、今でもOOHクリエイティブの基本として広く知られています。
もちろん、この考え方自体は間違っていません。
しかし、「3秒で伝える」という言葉だけが一人歩きすると、本来の意味とは少し違う方向へ進んでしまうことがあります。
「3秒ですべて理解してもらわなければならない。」
そんな発想になってしまうのです。
ですが、本当に重要なのはそこではありません。
OOHで考えるべきなのは、
3秒で何を説明するかではなく、3秒後に何を記憶として残すか。
この視点に立つと、OOHクリエイティブの見え方は大きく変わります。
広告には、それぞれ役割があります。
例えば、企業のホームページやランディングページは、商品やサービスについて詳しく理解してもらうためのものです。
パンフレットやカタログも同じです。
興味を持った人がページを開き、自分のペースで読み進めることを前提に設計されています。
一方で、OOHはまったく違います。
街を歩く人は、広告を見るために外出しているわけではありません。
朝8時の駅前を思い浮かべてみてください。
会社員は電車の時間を気にしながら改札へ向かっています。
学生は友人と話しながらホームへ急ぎます。
スマートフォンでニュースを読んでいる人もいれば、乗換案内を確認している人もいます。
ロードサイドでは、ドライバーが信号や歩行者、周囲の車の動きに注意を払いながら運転しています。
子どもを乗せた自転車のお母さんは、安全を確認しながら交差点を渡っています。
誰も、広告を見るために街を歩いてはいません。
それでも、街には印象に残る広告があります。
なぜでしょうか。
それは、OOHが「読ませる広告」ではなく、「自然と視界に入り、記憶に残る広告」だからです。
視界に入った瞬間、「何だろう?」と思わせる。
ブランド名だけでも覚えてもらう。
印象的な写真だけでも残す。
OOHは、情報を読む広告ではなく、記憶をつくる広告なのです。
だからこそ、Web広告と同じ発想で情報を詰め込むと、本来の力を発揮できなくなります。
屋外広告では、「どれだけ多く伝えられるか」ではなく、「何を残せるか」という考え方が重要になります。
ここで一度、3秒という時間を考えてみましょう。
3秒あれば、どれくらいの情報を理解できるでしょうか。
例えば、新しくオープンするフィットネスジムの広告があったとします。
そこに、
これだけの情報が載っていたらどうでしょう。
歩きながら、あるいは車で通り過ぎながら、そのすべてを理解することはほとんど不可能です。
住宅展示場も同じです。
耐震性能。
断熱性能。
価格帯。
来場特典。
キャンペーン。
イベント情報。
一つひとつは大切な情報ですが、数秒で理解できる人はいません。
クリニックでも、
診療科目。
診療時間。
予防接種。
健康診断。
WEB予約。
駐車場。
これらを一度に並べても、結局どれも頭に残らないことがあります。
広告制作の現場では、
「これも入れたい。」
「あれも伝えたい。」
という声が自然に出てきます。
どの情報も間違いなく必要です。
しかし、その結果、情報が増えれば増えるほど、一番伝えたかったことが埋もれてしまうことがあります。
だからOOHでは、
「何を説明するか」ではなく、「何を覚えて帰ってもらうか」
を考える必要があります。
その違いが、広告の印象を大きく変えるのです。
ここで、実際のOOHクリエイティブをイメージしてみましょう。
例えば、駅前に新しく24時間営業のフィットネスジムがオープンするとします。
広告を制作する際、多くの企業は「せっかく広告を出すなら、できるだけ多くの情報を伝えたい」と考えます。
その結果、こんな広告になることがあります。
24時間営業!
月会費3,980円!
入会金無料キャンペーン実施中!
見学・体験受付中!
初心者歓迎!
シャワー完備!
駐車場あり!
詳しくはこちら ▶ QRコード
一つひとつの情報は間違いなく必要です。
しかし、歩きながら、あるいは車で通り過ぎながら、この内容をすべて理解することはできるでしょうか。
おそらく、多くの人は最後まで読むことすらできません。
結果として、
「何かジムの広告だったな。」
そんな曖昧な印象だけが残ってしまいます。
では、次の広告ならどうでしょう。
24時間ジム
(大きなロゴと印象的なビジュアル)
伝えている情報は圧倒的に少なくなっています。
しかし、
「駅前に新しいジムができる。」
「○○GYMという名前だった。」
という記憶は残りやすくなります。
そして数日後。
仕事帰りに、
「運動でも始めようかな。」
と思ったとき、
Googleで検索するかもしれません。
Googleマップを開くかもしれません。
そのとき、
「そういえば、この前見たジムだ。」
と思い出してもらえれば、この広告は十分に役割を果たしています。
つまり、この広告が目指しているのは、
その場で入会してもらうことではありません。
「思い出してもらうこと」
なのです。
この考え方は、フィットネスジムだけではありません。
例えば、新しく開院するクリニックでも同じです。
ありがちな広告は、このようなものです。
内科
小児科
皮膚科
健康診断
予防接種
各種検査
土曜診療
WEB予約対応
駐車場あり
もちろん、患者さんにとって必要な情報ばかりです。
しかし、駅前を歩く人が、この情報をすべて読むでしょうか。
ロードサイドを走るドライバーが理解できるでしょうか。
答えは、おそらく「難しい」です。
一方で、
(安心感のある外観写真)
これだけであればどうでしょう。
診療科目は分からなくても、
「駅前に新しいクリニックができる。」
という記憶は残ります。
そして、
子どもが熱を出した日。
風邪をひいた日。
健康診断を受けようと思った日。
Googleで、
「○○駅 内科」
と検索したとき、
「あ、このクリニック見たことがある。」
という安心感につながります。
OOHがつくっているのは、診療内容への理解ではありません。
"知っている"という心理的なハードルの低さなのです。
ここで改めて、「3秒ルール」を考えてみましょう。
OOHでは、「3秒しか見られない。」と言われます。
しかし、この3秒は、
説明する時間ではありません。
もっと言えば、
理解してもらう時間でもありません。
3秒とは、
印象を残す時間です。
例えば、
真っ赤な背景。
大胆な一枚の写真。
企業カラーを前面に出したデザイン。
短く力強いコピー。
こうした広告は、一瞬しか見なくても頭に残ることがあります。
反対に、
文字がぎっしり並び、
情報量が多く、
視線があちこちに動いてしまう広告は、
時間をかけて見ても印象に残らないことがあります。
OOHにおいて重要なのは、
「理解されたか」
ではありません。
「記憶されたか」
です。
だから私は、
「3秒で伝える」
という言葉よりも、
「3秒後に何が残るかを設計する」
という表現の方が、OOHの本質に近いと考えています。
この考え方に立つと、
コピーも、
写真も、
色も、
ロゴも、
レイアウトも、
すべてが「記憶をデザインするための要素」として見えてきます。
OOHが他の広告と大きく違うのは、
同じ人に何度も接触できることです。
毎朝通る駅。
毎日通る幹線道路。
いつもの通勤ルート。
同じ広告を繰り返し目にすることで、人は少しずつその存在を認識していきます。
心理学では、この現象を「単純接触効果(ザイオンス効果)」と呼びます。
人は、繰り返し接触したものに対して親近感や安心感を抱きやすくなるという心理効果です。
最初は何も感じなかった広告でも、
翌日また見かける。
一週間後にも目に入る。
一か月後には、
「最近、この会社をよく見るな。」
という認識へ変わっていく。
これがOOHの強さです。
だから、一度の接触で100点を目指す必要はありません。
一回で全部説明するよりも、
毎日少しずつ記憶を積み重ねていく。
その発想の方が、OOHという媒体には適しています。
OOHクリエイティブの話になると、
「情報を減らしましょう。」
「文字数を少なくしましょう。」
という話をよく耳にします。
もちろん、それ自体は間違いではありません。
しかし、それだけでは少し説明が足りないように思います。
本当に大切なのは、
文字数を減らすことではなく、優先順位を決めることです。
広告制作の現場では、必ずと言っていいほどこんなやり取りがあります。
「営業時間も載せたい。」
「キャンペーンも伝えたい。」
「QRコードも付けよう。」
「SNSも見てもらいたい。」
「料金も入れたい。」
「住所も載せないと。」
どれも必要な情報です。
だからこそ、削るのが難しい。
しかし、その結果として情報を足し続けると、広告全体の焦点がぼやけてしまいます。
例えば、レストランの看板であれば、
料理の写真も見せたい。
ランチメニューも紹介したい。
営業時間も伝えたい。
駐車場の有無も載せたい。
テイクアウトもアピールしたい。
Instagramも見てもらいたい。
結果として、見る人の視線はあちこちへ動き、
結局、「何のお店だったのか」だけが曖昧になってしまうことがあります。
一方で、
大きく料理の写真を一枚。
「炭火焼ハンバーグ」
という一言。
店名。
それだけでも、
「今度行ってみたい。」
という印象は残ります。
情報量は減っています。
しかし、広告としての力は、むしろ強くなっています。
だからOOHにおける「引き算」とは、
情報を減らすことではありません。
何を最も記憶してほしいのかを決めることです。
この優先順位が決まると、不思議なくらいデザインもシンプルになります。
レイアウトも整います。
コピーも短くなります。
つまり、「引き算」はデザインテクニックではなく、
広告戦略そのものなのです。
Web広告には、クリックという明確なゴールがあります。
検索広告であれば、
検索する。
クリックする。
申し込む。
この流れが一つの広告体験として成立しています。
一方で、OOHは少し違います。
看板を見た人が、その場で問い合わせをすることは多くありません。
駅で広告を見て、立ち止まって電話をかける人はほとんどいないでしょう。
ロードサイドで看板を見て、車を停めてホームページを見る人も多くはありません。
では、OOHは意味がないのでしょうか。
もちろん、そんなことはありません。
OOHは、生活者の行動の最初のきっかけをつくる広告だからです。
例えば、通勤中に新しいベーカリーの看板を見かけたとします。
その日は何も起こりません。
翌日も通り過ぎます。
数日後、家族との会話で「今度パンを買いに行こうか」という話になります。
その瞬間、
「あ、駅前に新しいパン屋ができていたな。」
と思い出す。
あるいは休日にGoogleマップで検索する。
Instagramで店内の雰囲気を見る。
口コミを確認する。
そして来店する。
この一連の流れの最初にあるのが、OOHです。
つまり、OOHは商品やサービスを「売る」広告というより、
思い出すきっかけをつくる広告と言った方が近いのかもしれません。
スマートフォンが普及した現在、生活者の行動は大きく変わりました。
以前は、看板を見ても、その場でできることは限られていました。
しかし今は違います。
気になったお店があればGoogle検索をする。
Googleマップで営業時間を確認する。
Instagramで雰囲気を見る。
口コミを読む。
YouTubeで紹介動画を見る。
つまり、OOHは単独で完結する広告ではなく、
検索やSNSへ自然につながる入口になっています。
だから最近のOOHでは、「全部説明する」ことよりも、
「検索したくなる状態をつくる」という考え方が、ますます重要になっています。
ブランド名だけ覚えてもらう。
店舗名だけ記憶してもらう。
印象的なコピーだけ残す。
それだけで十分なケースも少なくありません。
「続きは検索で調べてもらう。」
そんな役割分担ができるようになったことで、OOHクリエイティブの考え方も変わり始めています。
ここまでクリエイティブについてお話ししてきました。
しかし、もう一つ忘れてはいけないことがあります。
それは、どれだけ良いクリエイティブでも、届ける相手が違えば成果は出ないということです。
例えば、高所得者向けマンションの広告。
学生街に掲出するのと、高級住宅街へ向かう幹線道路に掲出するのでは、同じクリエイティブでも結果は変わります。
地域密着型クリニックであれば、生活道路や駅前が有効かもしれません。
観光施設であれば、高速道路や観光導線が適しているかもしれません。
つまり、
「誰に届けるか」と「何を残すか」は、セットで考える必要があります。
OOHでは、
場所を選ぶことと、
クリエイティブを考えることは、
本来、切り離せるものではありません。
ターゲットが通る場所だからこそ、
その人に何を記憶してもらうのかを考える。
その設計が噛み合ったとき、OOHは初めて本来の力を発揮します。
ここまで、「3秒ルール」とクリエイティブについて考えてきました。
しかし、どれだけ優れた広告を制作しても、それだけで成果が決まるわけではありません。反対に、人通りの多い場所へ掲出したからといって、必ず成果につながるわけでもありません。
OOHの成果は、
「誰に届けるか」と「何を記憶してもらうか」
この二つが重なったときに初めて生まれます。
例えば、地域密着型のクリニックと、新商品の認知拡大を目的としたメーカーでは、選ぶべき場所も、伝えるべき内容もまったく違います。
同じ看板という媒体でも、
ターゲットが違えば、
見るタイミングも違う。
見る時間も違う。
残すべき印象も違います。
だから私たちは、
「この場所なら人が多いから大丈夫。」
という考え方だけでは十分ではないと思っています。
重要なのは、
その場所には、どんな人がいて、どんな気持ちでその場所を通っているのか。
そして、その人の記憶に何を残したいのか。
その二つをセットで考えることです。
看板サーチでは、全国の屋外広告媒体を検索できるサービスとして、多くの媒体情報を掲載しています。
しかし、私たちが提供したい価値は、単に「空いている看板を探すこと」ではありません。
「どこに出すか。」
「どんな人に届けるか。」
「何を記憶として残すか。」
この3つをつなげて考えることが、本当のOOHプランニングだと考えています。
例えば、同じ駅前の媒体でも、
通勤利用者が多いのか。
買い物客が多いのか。
学生が多いのか。
昼間に人が集まるのか。
夜の接触が多いのか。
その違いによって、クリエイティブの設計も変わります。
また、ロードサイドでも、
生活道路なのか。
幹線道路なのか。
信号待ちが発生する場所なのか。
通過速度が速い場所なのか。
その違いによって、「残せる情報量」は大きく変わります。
つまり、
媒体選定とクリエイティブは、本来一つの設計なのです。
だから看板サーチでは、媒体情報だけでなく、人流データや商圏分析、エリア特性なども組み合わせながら、より効果的なOOH活用をご提案しています。
この記事では、「3秒ルール」という言葉をきっかけに、OOHクリエイティブについて考えてきました。
「3秒で伝えろ。」
この言葉は決して間違いではありません。
ただ、その意味を少しだけ捉え直してみると、OOHの見え方は大きく変わります。
3秒ですべてを説明する必要はありません。
商品の特徴をすべて理解してもらう必要もありません。
本当に大切なのは、3秒後に、何が残っているか。
ブランド名なのか。
印象的なビジュアルなのか。
キャッチコピーなのか。
店舗の存在なのか。
その優先順位を決めることこそが、OOHクリエイティブの本質です。
そして、その記憶は一度で完成するものではありません。
毎日の通勤。
いつもの買い物。
何気ない移動。
そんな日常の中で繰り返し接触することで、
「見たことがある。」
「知っている。」
「聞いたことがある。」
という記憶へと変わっていきます。
その記憶が、ある日ふと必要になったとき、
Googleで検索する。
Googleマップで場所を調べる。
家族に話題として共有する。
店舗へ足を運ぶ。
そうした次の行動につながっていくのです。
OOHは、その場で完結する広告ではありません。
人の記憶に小さな種をまき、その後の行動を後押しする広告なのです。
おわりに
これまで看板サーチでは、
「OOHで重要なのは『何人見たか』ではなく『誰が、何回見たか』」
といったテーマを通じて、OOHを「生活者の行動」という視点から考えてきました。
そして今回のテーマは、その最後のピースとも言えるクリエイティブです。
効果測定だけでは、OOHは語れません。
人流データだけでも、成果は生まれません。
優れた媒体だけでも、不十分です。
「誰に届けるか」「どこで届けるか」「何を記憶として残すか」。
この3つが重なったとき、OOHは初めて本来の価値を発揮します。
街には毎日、数え切れないほどの広告があります。
その中で選ばれる広告とは、情報量が多い広告ではありません。
人の記憶に残る広告です。
もし次に街を歩くとき、ふと目に入った看板を見かけたら、ぜひこんな視点で眺めてみてください。
「この広告は、3秒で何を伝えようとしているのだろう。」ではなく、
「この広告は、3秒後に何を残そうとしているのだろう。」
その視点を持つだけで、街の景色はこれまでとは少し違って見えてくるはずです。
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